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いつも旅の思い出には宿がありました。

学生時代、インド旅行中に、体調を崩したことがありました。熱にうなされてベッドの上で寝こんでいると、宿のオーナーがパンとスープをふるまってくれました。孫娘にあたる女の子も、恥ずかしそうな顔で、オレンジジュースを運んでくれました。

そんなふうに一週間ほども、余分にお世話になってしまったのです。旅先の心細さもあって、やさしさが染みました。夜中に、なぜか泣いたのを覚えています。

彼らのおかげで体調は回復に向かいました。そして一週間後の旅立ちの日、食事や延泊の料金を支払おうとしたら「お金はいらないよ。私は宿のオーナーとして当たり前のことをしただけだから」と断られてしまいました。

「世界が住みやすい場所だったらいいなと思っているんだ」宿のオーナーは孫娘の頭をなでながら言いました。
「君もこれから何かをするはずだよ」

この体験は強く心に残ることになりました。いまも大切な思い出の1ページです。それからも多くの国を旅して、多くの人と会って、多くの言葉をやりとりしました。笑ったり、傷ついたり、悩んだり、言葉にできない感情に襲われたり、たくさんの思い出をつくりました。

そんな放浪の旅を終えたあとのこと。日本に帰国して、ふと自分も誰かにとっての思い出をプレゼントできる大人でありたいなと思ったのです。

それが〝宿〟をつくるということでした。

宿をつくるのはワクワクする体験です。旅行者の顔を思い浮かべながら「リビングの中央にソファがあると話もはずむだろう」「遠い国からたどりついたときに、玄関が明るいと、ほっと安心してくれるかもしれない」「朝いちばんに美しい景色が飛びこんでくるようにベッドを置こう」なんて、あれこれ考えるのです。

出来上がった部屋をながめたときは、いつも感動します。

個人的には、宿づくりの醍醐味は、なんといっても名前をつける瞬間です。

世界にひとつだけの宿が誕生するのですから。誇らしい気持ちがするものです。もちろん私たちのサービスでも、あなたの宿には、あなたが名前をつけることができます。

おもてなしの心から和風の名前をつける方もいれば、自分の大切にしている言葉や、パートナーや、お子様や、恋人の名前をつける方もおられます。

例えば、この世界のどこかに、大切な人の名前のついた宿があるなんて、素敵なプレゼントだと思いませんか。ご本人をお連れしたら、どんなに喜んでくれるでしょう？

その素敵な名前のつけられた宿で「旅の思い出」が生まれつづけるのです。

その宿には、きっと100ヶ国以上からも旅行者がやってくるでしょう。家族や、友人や、恋人たちと期待に胸をはずませながら。

彼らは、あなたの宿で、それぞれの国の言葉で話すでしょう。地元の店で買ったお肉と野菜でシチューを作ったり、ビールを手に将来の夢について語ったり、ダイヤの指輪でプロポーズするのでしょう。

その瞬間、世界は、すこしだけ住みやすくなっていると思いませんか？

私たちの会社は、海外からの観光客に、もっと、この国を好きになってもらうために民泊やホテルという形で〝宿〟をつくることもあれば、

視野を国内にむけて、家族や恋人の暴力から逃げだすためのシェルターや、失業や貧困から生活を立て直すためのセーフティネットとして、社会に貢献するための、女性専用シェアハウスという形の〝宿〟も展開しています。

誰かにとって、すこしでも世界が住みやすいものでありますように。

私たちは宿をつくりつづけます。

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